那谷
芭蕉は花山法皇ゆかりの那谷寺を訪れます。花山法皇は17歳で天皇として即位、19歳で出家剃髪して退位された方です。
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原文
山中の温泉に行ほど、白根が嶽跡にみなしてあゆむ。左の山際に観音堂あり。花山の法皇、三十三所の順礼とげさせ給ひて後、大慈大悲の像を安置し給ひて、那谷と名付給ふと也。那智、谷汲の二字をわかち侍しとぞ。奇石さまざまに、古松植ならべて、萱ぶきの小堂、岩の上に造りかけて、殊勝の土地也。
石山の石より白し秋の風
現代語訳
山中温泉に行く道すがら、白根が岳を背にして歩んでいく。左の山際に観音堂がある。花山法皇が西国三十三か所の巡礼をおとげになって後、人々を救う大きな心(大慈大悲)を持った観世音菩薩の像を安置されて、「那谷」と名付けられたということだ。
三十三か所の最初の札所である那智と最期の札所である谷汲から、それぞれ一時ずつ取ったということだ。
珍しい形の石がさまざまに立ち並び、古松が植え並べられている。萱ぶきの小さなお堂が岩の上に建ててあり、景色のよい場所である。
石山の石より白し秋の風
(意味)那谷寺の境内にはたくさんの白石があるが、それより白く清浄に感じるのが吹き抜ける秋の風だ。境内にはおごそかな空気がたちこめている。
注
- 白根が嶽
- 白山。歌枕。加賀・越中の境。富士・立山とともに日本三大名山の一つ。「消えはつる時しなければ越路なるしら山の名は雪にぞ有ける」(凡河内躬恒・古今集)。平家物語「倶利伽羅落」に木曽義仲が白山の社に戦勝祈願のため馬を奉納する場面がある。
- 花山の法皇
- 65代花山天皇。在位984-986。17歳で即位。19歳で剃髪して出家、退位した。出家の原因は寵愛した女御が亡くなったことに加えて関白藤原兼家の策謀があったとされる。出家し法皇となった後は紀伊国熊野からはじまる三十三の観音霊場を巡礼。
- 三十三所
- 西国三十三所。三十三か所の観音霊場の総称。養老2年(718年)徳道上人が地獄から持ち帰った宝印に従い霊場を定めたとされる。
- 大慈大悲
- 観世音菩薩の広大無辺の慈悲。
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