笠島
藤中将実方は光源氏のモデルとも言われる平安時代の歌人です。芭蕉は笠島の地にその墓を訪ねます。
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原文
鐙摺、白石の城を過、笠島の郡(こおり)に入れば、藤中将実方の塚はいづくのほどならんと、人にとへば、「是より遙右に見ゆる山際の里を、みのわ・笠島と云、道祖神の社、かた身の薄、今にあり」と教ゆ。此比(このごろ)の五月雨に道いとあしく、身つかれ侍れば、よそながら眺やりて過るに、箕輪・笠島も五月雨の折にふれたりと、
笠島はいづこさ月のぬかり道
岩沼に宿る。
現代語訳
鐙摺、白石の城を過ぎて、笠島の宿に入る。
藤中将実方の墓はどのあたりだろうと人に聞くと、「ここから遙か右に見える山際の里を、箕輪・笠島といい、藤中将がその前で下馬しなかったために落馬して命を落としたという道祖神の社や、西行が藤中将について「枯野のすすき形見にぞ見る」と詠んだ薄が今も残っているのです」と教えてくれた。
このところの五月雨で道は大変通りにくく、体も疲れていたので遠くから眺めるだけで立ち去ったが、蓑輪、笠島という地名も五月雨に関係していて面白いと思い、一句詠んだ。
笠島はいづこさ月のぬかり道
(意味)実方中将の墓のあるという笠島はどのあたりだろう。こんな五月雨ふりしきるぬかり道の中では、方向もはっきりしないのだ。
その夜は岩沼に泊まった。
注
- 鐙摺
- 騎馬が一騎ずつしか通れないくらい道が狭く、鐙が摺れたためこの名がついた。
- 藤中将実方
- 平安時代の歌人。一条天皇の時代(984-1011)。藤原行成と宮中で口論となり、冠をはたき落とした。このため一条天皇の怒りを買い、陸奥守に左遷された。光源氏のモデルの一人と言われる。
かくとだにえやは伊吹のさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを
↑百人一首の藤中将実方の歌を朗読しています。
- 道祖神
- 旅人の安全を守る神。藤中将が笠島の道祖神の社の前で下馬の礼を取らなかったのを現地の人がとがめたが、中将は馬からおりなかった。このため落馬して失命したという。
- 朽ちもせぬその名ばかりをとどめ置きて枯れ野のすすき形見にぞ見る(西行)
- 実方の名前ばかりが廃れずに残っているが、今は枯れ野のすすきをその形見に見るばかりだ。平家物語「実盛」では北陸に散った老将、斉藤別当実盛を語るのにこの西行の歌が引用されている。その実盛のことは
『奥の細道』小松に詳しく書かれている。
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