むざんやな甲の下のきりぎりす
【意味】「小松」という可愛らしい名前のこの地に、萩やススキをゆらして秋の風が吹いている。
この句が詠まれた章≫ 小松
斉藤別当実盛の故事をもとにした句です。
斉藤別当実盛はもとは源氏に、
後に平家の使えた人物です。
平家物語「実盛」
← こちらで朗読しています。
北陸の篠原で木曾義仲軍と平維盛軍が戦った時、
実盛は維盛軍の中にいました。
この時すでに70歳を越えています。
義仲と実盛の間には浅からぬ因縁がありました。
義仲が幼少の時、その父義賢が親類との領土争いに
破れます。
その時、孤児になった2歳の義仲を保護したのが、
この斉藤別当実盛だったのです。
ようは実盛は義仲にとって命の恩人みたいなモンです。
しかし北陸の地で源平の争いが始まってしまった…!
義仲と実盛はいまや敵同士です。
実盛は自分はこのとおり老人だけども、
手加減などしてくれるなと、髪の毛を黒く染めて
出陣します。
そして平家方の敗北。実盛は撤退していく味方の
最後尾で、敵の追撃を防いでいました。
そこへやってきた義仲方の武将、
手塚太郎光盛。
激しい取っ組み合いの末、とうとう実盛は
手塚太郎に討たれてしまいます。
その首を見た義仲は、顔色を変えます。
「これは斉藤別当ではないか!」
しかし、もし斉藤別当ならばもう
七十すぎ。髪の毛は白いはず。
こんな真っ黒なはずはない。
どういうことだろう。
そこで同じく斉藤別当と顔見知りである
樋口次郎兼光を呼び出します。
樋口次郎は一目見て、
涙をはらはらと流します。
この時の樋口次郎の台詞、
「あなむざんや斉藤別当で候つれ」が、
この句の元ネタです。
平家物語「実盛」
← こちらで朗読しています。
この句が詠まれた章≫ 小松