最上川
「五月雨を集めてはやし最上川」…秀句ぞろいの「奥の細道」ですが、このへんは特に集中しています。
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原文
最上川のらんと、大石田と云所に日和を待。爰に古き俳諧の種こぼれて、忘れぬ花のむかしをしたひ、芦角一声の心をやはらげ、此道にさぐりあしゝて、新古ふた道にふみまよふといへども、みちしるべする人しなければと、わりなき一巻残しぬ。このたびの風流、爰に至れり。
最上川は、みちのくより出て、山形を水上とす。ごてん・はやぶさなど云おそろしき難所有。板敷山の北を流て、果は酒田の海に入。左右山覆ひ、茂みの中に船を下す。是に稲つみたるをや、いな船といふならし。白糸の滝は青葉の隙々に落て、仙人堂、岸に臨て立。水みなぎつて舟あやうし。
五月雨をあつめて早し最上川
現代語訳
最上川の川下りをしようと思い、大石田という場所で天気がよくなるのを待った。
かつてこの地に談林派の俳諧が伝わり、俳諧の種がまかれ、それが花開いた昔のことを、土地の人は懐かしんでいる。
葦笛を吹くようなひなびた心を俳諧の席を開いて慰めてくれる。
「この地では俳諧の道を我流でさぐっているのですが、新しい流行の俳諧でいくか、古い伝統的なものでいくか、指導者がいないので決めかねています」と土地の人がいうので、やむを得ず歌仙を一巻残してきた。
今回の風流の旅は、とうとうこんなことまでする結果になった。
最上川の源流は陸奥であり、上流は山形である。碁点・はやぶさなどという、恐ろしい難所がある。歌枕の地、板敷山の北を流れて、最後は酒田の海に流れ込んでいる。左右に山が覆いかぶさって、茂みの中に舟を下していく。
これに稲を積んだものが、古歌にある「稲船」なのだろうか。
有名な白糸の滝は青葉の間間に流れ落ちており、義経の家臣、常陸坊海尊をまつった仙人堂が岸のきわに建っている。
水量が豊かで、何度も舟がひっくり返りそうな危ない場面があった。
五月雨をあつめて早し最上川
(意味)降り注ぐ五月雨はやがて最上川へ流れこみ、その水量と勢いを増し、舟をすごい速さで押し流すのだ。
注
- 古き俳諧の種こぼれて
- 「古き俳諧」は古風な談林派の俳諧。「種がこぼれた」だから、種がまかれた、それがかつて伝わった、ということ。
- 忘れぬ花のむかしをしたひ
- 「種」に対応して「花」。まかれた種(談林派の俳諧)が花開き、この地で俳諧がさかんになった、ということ。しかしそれも昔のことで、人々は現在進む道を選びかねている。
- 芦角一声の心
- 「芦角」葦の葉でつくった笛。葦笛。「一声」だから、それをぺーと鳴らす、そういう侘しい感じ。
- 新古ふた道にふみまよう
- 伝統的な談林風でいくか、元禄の新風でいくか、迷っている
- 板敷山
- 「みちのくに近き出羽の板敷の山に年ふるわれぞ侘びしき」(よみ人しらず・夫木和歌抄)「世をいとふすみかは苔をしと寝にて山の名にさく板敷もなし」(小沢沢庵・六帖詠草)
- 稲舟
- この地方特有の運搬船。舟に稲を積んで運んだ。「最上川のぼりば下る稲舟のいなにはあらずこの月ばかり」(東歌・古今集)
- 白糸の滝
- 最上川には四十八の滝があり、白糸の滝はその最大のもの。
- 仙人堂
- 外川神社。JR陸羽西線高屋駅そばの最上川北岸にある。義経の家臣常陸坊海尊をまつる。船下りの船でしか行けない。
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