仏五左衛門

『奥の細道』がそれまでの紀行文と違う点として、この「仏五左衛門」のように人物をテーマにした章がもうけられていることがあります。



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原文

卅日(みそか)、日光山の麓(ふもと)に泊まる。あるじの云けるやう、「我名を仏五左衛門と云。万(よろづ)正直を旨とする故に、人かくは申侍まゝ、一夜の草の枕も打解て休み給へ」と云。いかなる仏の濁世塵土に示現して、かゝる桑門の乞食巡礼ごときの人をたすけ給ふにやと、あるじのなす事に心をとゞめてみるに、唯無智無分別にして正直偏固の者也。剛毅木訥の仁に近きたぐひ、気稟(きひん)の清質、尤(もっとも)尊(たっと)ぶべし。


現代語訳

三月三十日、日光山のふもとに宿を借りて泊まる。宿の主人が言うことには、「私の名は仏五左衛門といいます。なんにでも正直が信条ですから、まわりの人から「仏」などと呼ばれるようになりました。そんな次第ですから今夜はゆっくりおくつろぎください」と言うのだ。

いったいどんな種類の仏がこの穢れた世に姿を現して、このように僧侶(桑門)の格好をして乞食巡礼の旅をしているようなみすぼらしい者をお助けになるのだろうかと、主人のやることに心をとめて観察していた。

すると、知恵や分別が発達したということでは全くなく、ただひたすら正直一途な者なのだ。

論語にある「剛毅朴訥は仁に近し」という言葉を体現しているような人物だ。

生まれつきもっている(気稟)、清らかな性質(清質)なんだろう、こういう者こそ尊ばれなければならない。

解説

芭蕉は日光山のふもとで一泊します。宿の主人は仏五左衛門といいまして、なかなかこれが味のある人物です。

「よろず正直を旨とするゆえに人かくは申しはべる」…あらゆることに正直を信条としてますので、人がこう言うのですと。

まあ、「自分で言うか?」という感じもありまして、なかなかユーモラスというか、味のある人物です。

この仏五左衛門を評して、芭蕉が「剛毅朴訥の仁に近きたぐい」と言ってますが、これは論語の文句、「色巧言令色鮮なし仁」「剛毅朴訥は仁に近し」を元にしています。

口ばっかり達者で見かけがいいやつは信用できない、地味でかざりっけのない人こそ信じられるのだ」ということです。



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朗読:左大臣

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