語られぬ湯殿にぬらす袂かな
【意味】ここ湯殿山で修行する人は山でのことを一切口外してはいけないというならわしがあるが、そういう荘厳な湯殿山に登って、ありがたさに涙を流したことよ。
この句が詠まれた章≫ 羽黒
古文でタモトや袖がどうのこうの言い出したら、
まず「泣く」という意味です。
これはもうほとんど100パーセント、慣用表現なので、
覚えておいてソンは無いです。
『平家物語』には、これでもかってくらい出てきます。
(『平家物語』ほど人が泣きまくる物語も珍しいと思います)
「御所中の女房たち、皆袖をぞぬらされける」
↑平家物語「月見」より
「供奉の公卿・殿上人…皆袖をぞしぼられける」
↑平家物語「大原御幸」より
また、百人一首の
「契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは」
もよく知られています。
ただし、この句の涙は、悲しみではなく、感激の涙です。
ああ…これが話に聞いていた湯殿山か、
なんとありがたい…
そう言って、感激にうち震えているのです。
この句が詠まれた章≫ 羽黒
朗読・訳・解説:左大臣光永