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芭蕉の親友の柏木素龍(かしわぎそりゅう)が「奥の細道」について書いたものです。この「跋」が書かれた元禄七年の十月、芭蕉は帰らぬ人となりました。

からびたるも艶なるも、たくみましきも、はかなげなるも、おくの細みちみもて行に、おぼえずたちて手たたき、伏して村肝を刻む。一般(ひとたび)は蓑をきるきるかゝる旅せまほしと思立、一たびは座してまのあたり奇景をあまんず。かくて百般の情に、鮫人が玉を翰(ふで)にしめしたり。旅なる哉、器なるかな。只なげかしきは、かうやうの人のいとかよはげにて、眉の霜のをきそふぞ。

元禄七年初夏 素竜書

現代語訳

枯れて侘しい情緒も、力強いのも、か弱い感じも、「奥の細道」を読んでいくと思わず立ち上がって感激に手を叩いたり、また坐ったまま感動に胸が熱くなったりする。

私も一度は蓑をきてこのような旅をしたいものだと思い立ちったり、またある時は座ったままその景色を想像して満足したりする。

こういった様々な感動を、まるで人魚の涙が結晶して玉となったように、文章の力によって形にしたのだ。

「奥の細道」の旅の、なんと素晴らしいことか。また芭蕉の才能のなんと優れていることか。

ただ嘆かわしいことに、このように才能ある芭蕉が健康にはめぐまれず、かよわげなことで、眉毛にはだんだん白いものが増えていっている。

元禄七年初夏 素竜しるす


朗読・訳・解説:左大臣光永

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