室の八島

曾良がはじめて発言します。なかなかの博識っぷりです。



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原文

室の八島に詣す。同行曾良が曰く、「此神は木の花さくや姫の神と申て富士一躰(いったい)也。無戸室(うつむろ)に入りて焼給ふちかひのみ中に、火々出身のみこと生れ給ひしより室の八島と申。又煙を読習し侍もこの謂也」。将(はた)、このしろといふ魚を禁ず。縁起の旨、世に伝ふ事も侍し。


現代語訳

室の八島と呼ばれる神社に参詣する。旅の同行者、曾良が言うには、「ここに祭られている神は木の花さくや姫の神といって、富士の浅間神社で祭られているのと同じご神体です。

木の花さくや姫が身の潔白を証しするために入り口を塞いだ産室にこもり、炎が燃え上がる中で火々出身のみことをご出産されました。それによりこの場所を室の八島といいます。

また、室の八島を歌に詠むときは必ず「煙」を詠み込むきまりですが、それもこのいわれによるのです。

また、この土地では「このしろ」という魚を食べることを禁じているが、それも木の花さくや姫の神に関係したことだそうで、そういった神社の由来はよく世の中に知られている。

室の八島
現大神(おおみわ)神社。藤原実方が「 いかでかは思ひありともしらすべき室の八島のけぶりならでは」 と詠んで以来、歌枕となる。
木花之開耶姫(このはなさくやびめ)
「日本書紀」「古事記」に見える。瓊々杵尊(ににぎのみこと)の妻。わずか一晩の交わりで子を宿したため、身の貞節を疑われる。姫は「瓊々杵尊の子供なら火の中でも出産できるはずだ」と、産室の入り口をふさいで中で火を燃やす。炎の中、無事に火々出見の尊が生まれ、姫の潔白が証明された。
このしろ
このしろを焼くと人体を焼くニオイがするため、炎の中で出産した木花之開耶姫のことを思って、この地域ではこのしろを食べない。

解説

栃木県の室の八島。歌枕で知られるところです。

ここで曾良がはじめて顔を出して室の八島の由来を語ります。

曾良はもちろん最初からついてきてるんで、冒頭部分に曾良のことが書いてあってもいいんですが、

ここまで来てはじめて顔を出すということは、いかにも頭よさそうに解説をさせて、曾良の人物像を印象づける意図でしょう。

事実をそのまま書くのではなく、見せ方に工夫があるのが「奥の細道」の特徴です。

室の八島」のゆらいは「古事記」に書かれています。

昔ニニギノミコトという神様がいましてコノサクヤビメという女の神様と結婚しました。

それがたった一回の営みで、子供を授かります。で、男の側としては疑います。「なんだお前、よそで作ってきた子供だろう。俺はそんな他人のガキなんて認知しないぞ」と、怒り狂うのです。

そこでコノサクヤビメは身の潔白を証明しようとします。ゴーと中で火が燃えたぎる岩屋の中にこもり、その中で出産をするといいだします。

もしほかの男性の子なら、焼け死ぬでしょう。あなたの子供なら傷一つ負わないはずです、と。

えらい無茶な話ですが、まあ無事に生まれて、めでたしめでたしという話です。



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朗読:左大臣

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