酒田

原文

羽黒を立て、鶴が岡の城下、長山氏重行と云物のふの家にむかへられて、俳諧一巻有。左吉も共に送りぬ。川舟に乗て、酒田の湊に下る。淵庵不玉と云医師の許を宿とす。

あつみ山や吹浦かけて夕すヾみ

暑き日を海にいれたり最上川

語句

■鶴が岡 庄内藩酒井左衛門尉忠直十四万石の城下町。現山形県鶴岡市。 ■庄内藩士、長山五郎右衛門重行。江戸勤務中に芭蕉に入門したと思われる。 ■俳諧一巻 芭蕉の「めづらしや山をいで羽の初茄子(はつなすび)」を発句とする四吟歌仙。 ■図司左吉。呂丸。 ■川舟 鶴岡の町なかを流れる内川から大泉川を下って横山・押切・黒森を経て最上川に出て酒田へ至る。 ■淵庵不玉 伊藤玄順。医者。潜淵庵。酒田俳壇の中心人物。 ■あつみ山 温海山。酒田の南約40キロ。 ■吹浦 酒田の北20キロの海岸。現山形県飽海郡遊佐町吹浦。 ■「暑き日を…」 酒田の豪商寺嶋彦助別荘にて。袖の浦眺望の句。

現代語訳

羽黒をたって、鶴が岡の城下で長山氏重行という武士の家に迎えられて、俳諧を開催し、一巻歌仙を作った。

図司左吉もここまで送ってくれる。川舟の乗って酒田の港へ下る。その日は淵庵不玉という医者のもとに泊めてもらう。

あつみ山や吹浦かけて夕すヾみ
(意味)ここあつみ山から吹浦(海)を見下ろす。「あつみ山」と名前からして暑さを思わせる山から涼しい風を思わせる吹浦を見下ろすのは、しゃれた夕涼みだ。

暑き日を海にいれたり最上川
(意味)最上川の沖合いを見ると、まさに真っ赤な太陽が沈もうとしている。そのさまは、一日の暑さをすべて海に流し込んでいるようだ。

解説

羽黒三山を降りた芭蕉と曾良は、鶴岡の武士、庄内藩士長山重行の館に招かれて、俳諧の席を持ちます。深川の芭蕉庵のそばの小名木川沿いに庄内藩の下屋敷がありました。

そこに長山重行は勤務していたことがあり、その際に芭蕉の門人になっていました。あちこちで縁を作っていますね。芭蕉の人脈力すごいものがあります。

そして最上川を船に乗り、酒田の港まで下っていきます。短い章ですが、句が秀逸です。

あつみ山や吹浦かけて夕すヾみ

ここあつみ山から吹浦(海)を見下ろす。「あつみ山」と名前からして暑さを思わせる山から涼しい風を思わせる吹浦を見下ろすのは、しゃれた夕涼みだ。

暑き日を海に入れたり最上川

最上川の沖合いを見ると、まさに真っ赤な太陽が沈もうとしている。そのさまは、一日の暑さをすべて海に流し込んでいるようだ。
「日」には「一日」と「太陽」の両方の意味があり、一日の暑さを最上川に流し込んでいるという意味と、太陽がドーンと沈んでいく雄大な景色が重ね合わせて感じられます。

はじめの案は「涼しさや海に入れたり最上川」でした。涼しいなあ。海に流れ込む最上川よ。確かに涼しい風が伝わってくるのですが、それだけかよと言いたくなる弱い句です。

次に芭蕉はこう変えました。「涼しさを海に入れたる最上川」。ちょっと句に飛躍が出てきました。「涼しさ」そのものをドーンと海に流し込んでいるような最上川。

最終的に「暑き日を海に入れたる最上川」としました。「日」は一日と太陽の両方の意味を持ちます。

一日の暑さを最上川は海に流し込んでいるようだという意味と、真っ赤に燃える太陽がドーンと最上川に落ち込んでいく、その見た目のインパクト。両方が出ている、ダイナミックな句になっていますね。

酒田は物流の上で重要な場所でした。庄内平野の米は船に載せられて最上川を下り、酒田の港に集まります。

西廻り航路・東廻り航路

そして日本海に漕ぎ出し、港港に立ち寄りながら山陰を南下し、関門海峡を通って瀬戸内海に入り、難波津からあるものは陸揚げします。ここで大坂で下ろすわけです。京都へ向かうものは淀川をさかのぼって、伏見で陸揚げします。

一方、江戸へ向かうものはさらに紀伊半島をぐるっとまわって東海道沿いに港港に立ち寄りながら江戸まで向かいました。

これを西周り航路といい、江戸時代に開かれました。その出発点として、酒田は重要な港だったのです。一方、津軽海峡をまわる東回り航路もありましたが、難所が多く、すたれました。


朗読・訳・解説:左大臣光永


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