立石寺

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山形領(やまがたのりょう)に立石寺(りゅうしゃくじ)と云山寺あり。慈覚大師の開基にして、殊(ことに)清閑の地也。一見すべきよし、人々のすゝむるに依(より)て、尾花沢よりとつて返し、其間七里ばかり也。日いまだ暮ず。麓の坊に宿かり置て、山上の堂にのぼる。岩に巌を重て山とし、松栢年旧(しょうはくとしふり)、土石老て苔滑(こけなめらか)に、岩上(がんしょう)の院々扉を閉て、物の音きこえず。岸をめぐり、岩を這て、仏閣を拝し、佳景寂寞(かけいじゃくまく)として心すみ行のみおぼゆ。

閑さや岩にしみ入る蝉の声

現代語訳

山形藩の領内に、立石寺という山寺がある。慈覚大師の開基で、特別景色がよく静かな場所だ、一度は見ておくべきだ。人々がこうすすめるので、尾花沢から引き返した。その間、七里ばかりである。

まだ日暮れまでは時間がある。ふもとの宿坊に泊まる手はずを整えて、山上の堂にのぼる。多くの岩が重なりあって山となったような形で、松や柏など常緑の古木がしげり、土や岩は滑らかに苔むしている。

岩の上に建つどの寺院も扉を閉じて、物音がまったく聞こえない。崖から崖へ、岩から岩へ渡り歩き、仏閣に参拝する。

景色は美しく、ひっそり静まりかえっている。心がどこまでも澄み渡った。

閑さや岩にしみ入る蝉の声
(意味)ああ何という静けさだ。その中で岩に染み通っていくような蝉の声が、いよいよ静けさを強めている。

語句

■立石寺 現山形市山寺。「山寺」は地名であり、寺の俗称でもある。貞観2年(860年)に清和天皇の勅命で円仁(慈覚大師)が開山。天台宗の寺院。山号は宝珠山。山全体が凝灰岩からなる。景勝地として知られる。■慈覚大師 94-864。円仁。最澄に天台宗の教えを受ける。遣唐使として唐に渡る。帰朝後、第三代天台座主となり、貞観2年(860年)清和天皇の命で立石寺を創設。 ■清閑 この章の中心テーマ。 ■坊 宿坊。 ■佳景寂寞 「佳景」は景色が美しいこと。「寂寞」はひっそり静まりかえっていること。

解説

「閑かさや」は奥の細道の句の中でもっとも有名なものの一つですが、この形に落ち着くまで何度か推敲され たようです。「山寺や石にしみつく蝉の声」「淋しさの岩にしみ込せみの声」「さびしさや岩にしみ込蝉のこゑ」と改め、現在の形になったということです。

山寺
山寺

完全に無音なのでなく、かすかに音があるからこそ静けさが強調されるという趣向は、王維の漢詩「鹿柴」に通じるものがあります。

JR山寺駅

JR仙山線山寺駅で降ります。

山寺駅の待合室はいい雰囲気です。
駅の建物も銭湯みたいな神社みたいな、
脇に立った丸い郵便ポストもいい雰囲気です。
櫓みたいなものも立っていて…

川を挟んで両岸に街並みが広がっています。
駅から線路沿いに北に向かって道を進み、川を渡ると
左右にみやげもの屋さんが並ぶ鄙びた街並みの中を進んでいきます。

宝珠山立石寺

少し行くともう山寺。立石寺です。

立石寺。通称山寺。正式名称を宝珠山立石寺。
貞観2年(860年)清和天皇の勅命により
慈覚大師円仁が創設しました。東北屈指の霊場です。

山門から頂上の「奥の院」まで千十五段の階段が続きます。
山全体が寺になっているわけです。

古くは「りゅうしゃくじ」と言いました。

芭蕉と曾良のブロンズ像

ちょっと最初階段を登ってふもとの踊り場状のエリアがありますが、
ここからして見どころが満載です。

まず、芭蕉と曾良のブロンズ像があります。
まあ昭和47年、最近できたものなんですが
曾良の像は平成元年。真ん中に

「閑さや岩にしみ入る蝉の声」

の句碑が立っています。

句碑をはさんで芭蕉と曾良のブロンズ像が並びます。
座っている芭蕉像は、全国的にも珍しいものです。

ブロンズだけに曾良のツルツル頭もいよいよ照り映えて
いい雰囲気です。

1015段の階段

左手にある山門から入ります。

鎌倉時代に作られた山門で茅葺屋根のいい雰囲気です。

入口で入場料を払って1015段の階段を登って行きます。

すぐに見えてくるのが…

蝉塚

芭蕉直筆の短冊を埋めてあるという、蝉塚です。

「この下に芭蕉の短冊が…」

そんな感慨にふけりながら横を見ると山形名物力こんにゃくを売っています。
一本100円です。こんにゃくを団子状に串に刺してあります。

力こんにゃくをくちゃくちゃ噛みながら歩いていくと、
右手に雄大な景色が見えてきます。

弥陀洞(みだほら)

弥陀洞といって、長い年月の間に風雨にさらされた凝灰石が削られて
阿弥陀如来の姿を形作っています。
一丈六尺。約4.8メートルの姿から「丈六の阿弥陀」といわれます。

これが阿弥陀如来に見えた人は幸福になれると言いますが、
私はどう見てもちょっと見えなかったですが…

納経堂

慈覚大師の木の像をおさめた開山堂の
すぐ隣には、崖っぷちに立っている
小さな赤い建物があります。

写経を納める納経堂です。山寺で最も古い建物です。
ここからの景色は見事です。ストーンと下まで崖っぷちが
続いています。

こういう雄大な所で、思いっきり叫びたいですね。

閑さやーーーーーー

て、ぜんぜん静かじゃない感じで。
周りの観光客の目を集めて、大声を出す勇気は
ぼくはあんまり無いんですけど…

五大堂 ~ 山寺観光のクライマックス

そしてクライマックスは五大堂です。
山寺一、景色がキレイな場所です。
張り出した舞台からの眺めが雄大です。

五代明王を祀ってあります。五代明王は松島でも出てきましたが、
不動明王を中心とした密教のとてもエライ高位のボスです。

仏像によく作られています。見ると五代明王の仏像は
いかにもボスらしく、強そうです。いいツラがまえです。

松島にも海に張り出した有名な五大堂がありました。
五大堂に渡る「透かし橋」は震災で一度破壊されてしまいましたが、
現在ではキレイに復旧しています。

眼科にはふもとの家々。
またJR仙山線。
町を貫く立谷川(たちやがわ)が雄大に見渡されます。

ぜひ色々な季節に行ってみたい、
山形の山寺。立石寺。古くはりゅうしゃくじと言いました。

閑さや岩にしみ入る蝉の声


朗読・訳・解説:左大臣光永

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