あさか山

藤中将実方は光源氏のモデルとも言われる人物で、「奥の細道」では「あさか山」と「笠島」二章で言及されています。中将が昔この地に左遷されたとき、五月の菖蒲のかわりに「かつみ草」を生けたといいます。芭蕉はその「かつみ草」を訪ね歩きますが…



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原文

等窮が宅を出て五里計(ばかり)、檜皮(ひはだ)の宿を離れてあさか山有。路より近し。此あたり沼多し。かつみ刈比もやゝ近うなれば、いづれの草を花かつみとは云ぞと、人々に尋侍れども、更知人なし。沼を尋ね、人にとひ、「かつみかつみ」と尋ありきて、日は山の端にかゝりぬ。二本松より右にきれて、黒塚の岩屋一見し、福島に宿る。


現代語訳

等窮の家を出て五里ほど進み、檜肌の宿を離れたところにあさか山(安積山)が道のすぐそばにある。

このあたりは「陸奥の安積の沼の花かつみ」と古今集の歌にあるように沼が多い。昔藤中将実方がこの地に左遷された時、五月に飾る菖蒲がなかったため、かわりにこのり歌をふまえて「かつみ」を刈って飾ったというが、今はちょうどその時期なので、「どの草をかつみ草というんだ」と人々に聞いてまわったが、誰も知る人はない。

沼のほとりまで行って「かつみ、かつみ」と探し歩いているうちに日が山際にかかって夕暮れ時になってまった。

二本松より右に曲がり、謡曲「安達原」で知られる鬼婆がいたという黒塚の岩屋を見て、福島で一泊した。

花かつみ
古今集「陸奥の安積の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ」に詠まれている。正体は諸説ある。
藤中将実方
平安時代の歌人。光源氏のモデルともいわれている。清少納言と交流があった。天皇の怒りを買い、陸奥守に左遷され、現地で没した。その就任中、端午の節句にこの地に菖蒲がなかったので代わりに花かつみを軒にさしたという故事がある。
かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを
↑こちらで百人一首の藤中将実方の歌を朗読しています。
二本松
現福島県二本松市。高村光太郎「樹下の二人」に「みちのくの安達が原の二本松松の根かたに人立てる見ゆ」とある。
黒塚の岩屋
謡曲「安達原(あだちがはら)」に見える。安達が原を通る旅人を襲った鬼女は、僧佑慶に調伏され、黒塚の岩屋に葬れられた。「陸奥の安達が原の黒塚に鬼篭れりと言うは誠か」(平兼盛)「涼しさや聞けば昔は鬼の家」(正岡子規)

結局、「花かつみ」の正体は一日さがし歩いてもわからなかったわけです。「かつみ刈るころもやや近うなれば」とありますが、「かつみ」の正体がわからないに、なぜそれを「刈るころ」がわかるのか、ずっと疑問でした。藤中将実方のエピソードを知らないとここは理解できないです。



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朗読:左大臣

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