近初代市川団十郎と坂田藤十郎

初代市川団十郎の荒事

芭蕉の時代には、歌舞伎は江戸、大阪、京都を中心に
庶民の娯楽の中心となりました。中でも
江戸で一番の人気だったのが、初代市川団十郎です。

つい先日、お亡くなりになりましたね。
十二代目の市川団十郎さんが。あの方の、初代です。

初舞台は延宝元年(1673年)14歳の時。
中村座で『四天王稚立(してんのうおさなだち)』に
坂田金平役でした。

坂田公時。金太郎として知られる坂田公時の息子です。

「な、なんだありあああぁぁぁあぁ」

第一に客の目を驚かせたのは、
その威容な風貌でした。

顔を赤や黒に派手に塗りたくり、
ギローッと目をひん向いて、客席をにらみつけます。
一番後ろの席からもその異常さがうかがえます。

後世「隈取」と呼ばれる
表情を強調したり異常さを際立たせる技法は
初代市川団十郎によって始められました。

ダーーン、ダーーン!!

また驚きなのは、強烈な六方でした。
六方とは怒りや走っていることを象徴的にあらわすために、
役者が手を振り上げて派手に足踏みをすることです。

ダーーン、ダダーーーン!!

しかし、これほどの大きな音は
誰も聞いたことがありませんでした。

初代市川団十郎は成田不動尊を信仰していたことから、
代々の市川団十郎を「成田屋」と号することになりますが…

ダーーン、ダダダーーーン!!

あまりに六方の音が大きく、
「成田屋が六方を踏むと瀬戸物屋が迷惑がる」と言われました。

「荒事」と言われたこれらの荒々しい芝居。

もとは
金平浄瑠璃(きんぴらじょうるり)という
人形芝居からヒントを得たものでした。

金平浄瑠璃。金太郎の息子金平を主人公とした
人形芝居で、堺を中心に人気をはくしていました。

手足をもぎとったり、首を引っこ抜いたり、
岩をかち割ったり…激しい仕掛けを売りとしていました。

若き日の市川団十郎、
金平浄瑠璃を見ながら思いました。

「これは面白い。これを生身の人間がやったら
もっとすごいことになるぞ」

この発想が、団十郎の「荒事」と呼ばれる激しい芝居に
つながっていきました。


上演中に殺される


初代市川団十郎の最期はすさまじいものでした。

「成田屋、死ねええーーーっ!!」
「ぐっはああぁぁぁ」


団十郎に恨みを持っていた生島半六(いくしまはんろく)に
舞台の上で刺し殺されたと伝えられています。
楽屋という説もあります。

詳しい事情はわかりませんが、
まあいろいろ私生活で恨みを買うこともあったようです。

舞台の上で死ねたのは役者としては本望だったかもしれません。

しかし周りは困りますね。

「うわ~主役が殺されちゃったよ。どうしよう」
「とりあえず幕おろせ」

するするするーーと幕が下りて、
わーーっと上がる拍手。

「よっ!成田屋!」
「よかったぞ!」
「今までで一番よかった」


なんて声が上がったかもしれません。


坂田藤十郎

江戸で大人気をはくした団十郎も
京都ではサッパリ流行りませんでした。

江戸の観客が派手でケレン味の強い芝居を好んだのに対して、
京都の観客はもっと静かで現実的な芝居が好んだようです。

「団十郎の芝居は大げさで
わざとらしい」

こう言って
京都での評価は散々でした。

そのころ京都で人気をはくしていたのが初代坂田藤十郎です。

「和事」とよばれる
優しく繊細な芝居を得意としました。

得意としたのが若旦那の役です。

たとえば、

大商人の若旦那が、遊女に入れ込んで、
金を使い果たしてしまい、
親からは勘当され、落ちぶれ果てて、
行く先も無くなってしまいます。

若旦那はどうするか?
自分の屋敷でつかっている船頭の事務所に訪ねていくんです。

頼む、俺を雇ってくれ。じょ、冗談じゃないです。頭上げてください。
若旦那に、こんな汚れ仕事なんか、させられませんよ。

そう言わずに。俺はもう若旦那なんてたいそうなものでは無いんだ。
人生、一から出直したい。頼む。この通り。
そうですか。しかし大変ですよ。覚悟の上だ。
そうですか。若旦那がそこまでおっしゃるなら…。

ところが任せてみると、もともと頭はいいし仕事の覚えは早い。
その上元若旦那だけあって物腰が優雅で上品だとお客に大ウケします。

そのうちに客として乗り込んできた
さる娘さんといい仲になって…とか、そういう筋書きの芝居を、
坂田藤十郎、得意としました。「和事」です。
朗読・訳・解説:左大臣光永


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