俳諧について
「俳諧」というものを、ご存知ですか?
現在ではあまり聞きなれない言葉だと思います。
「俳句」…これはわかりますよね?
「五・七・五」で、季語があってという、例のアレです。
この「俳句」という言葉は、
明治時代に正岡子規が言い出したものです。
芭蕉の時代は「発句」といいました。
「はじめの句」という意味です。
鎌倉時代…。
貴族たちの間で「連歌」という遊戯が流行しました。
これは簡単に言うと、一つの長い歌を、
数人がリレー形式で詠むというものです。
一人が「五・七・五」、次が「七・七」、
次が「五・七・五」…という具合に。
この、最初の一人が詠んだ冒頭の「五・七・五」を
「発句」といいました。
芭蕉の時代に流行した「俳諧」も、
基本的な形は鎌倉時代の「連歌」と同じものです。
では「連歌」と「俳諧」の違いは何でしょうか?
「俳諧」という語の起源は
『古今和歌集』巻19「俳諧歌」にあります。
これは、滑稽味のある歌だけを集めた章です。
「滑稽」「面白み」…ここが大事です!
鎌倉時代の貴族たちが催した連歌は、和歌が基本です。
季節の情緒とか、恋愛の情だとか、
主に風流な、高尚な世界を歌いました。
しかしその「連歌」のジャンルの一つに
「俳諧之連歌」というものがありました。
面白可笑しい、言葉遊びを主体としたものです。
この「俳諧之連歌」は、はじめ「連歌」の一ジャンルに過ぎませんでした。
しかしだんだん地位を得ていき、
ついに「俳諧」という独立した文芸になったのです。
大雑把にいえば、
「連歌」=高尚、「俳諧」=滑稽
ということです。
特に松永貞徳(まつながていとく 1571-1654)が起こした一派は「貞門派」と呼ばれ、
京都を中心に栄えました。
芭蕉の師である北村季吟(きたむらきぎん 1625-1705)、
『おくのほそ道』「山中」の章に名前が見える安原貞室(やすはらていしつ 1610-1673)。
これらは貞門派の俳人です。
松永貞徳は伝統的な和歌には用いない俗語や庶民の日常語を取り入れ、
詩歌の近代化につとめました。
しかし、掛詞・縁語・見立てなど言葉遊びにこだわる作風は次第に飽きられ、
やがて大阪の西山宗因(にしやまそういん 1605-1682)を盟主とした談林派(だんりんは)にその地位を譲ることになります。
談林派は自由でのびのびした作風です。大阪を中心に栄えました。
主な参加者に『好色一代男』の井原西鶴(いはらさいかく 1642-1693)がいます。
しかしこの談林派もわずか十余年ですたれます。
代わって流行したのが松尾芭蕉を盟主とする
「蕉風(しょうふう)」です。
『奥の細道』には、行く先々で土地の人々と
俳諧を開いた様子が描かれています。
(須賀川、最上川、羽黒、酒田、金沢)
けして孤高の天才が、俗世間から離れて、
なにか高尚なことを考えた、ということではないのです。
「俳諧は、みんなでワイワイ」
ここを押さえておくと、『奥の細道』の理解が
グッと深まります。
ちなみに…、
最初の「五・七・五」を「発句」、
第二句の「五・五」を「脇」、
第三句の「五・七・五」を「第三」
四句の「五・五」を「第四」
…
以後、「第五」「第六」…
最後の句を「揚句」といいます。
百句続けて詠むことを「百韻」、
三十六句続けるのを「歌仙」といいます。
「百韻」は長すぎるということで
「歌仙」が好まれたようです。
『奥の細道』「須賀川」の章には、
「脇、第三と続けて、三巻となしぬ」とあります。
これは芭蕉が書いた「発句(五・七・七)」に続けて
二人目が「脇(五・五)」を、三人目が「第三(七・七)」を書き、
とうとう歌仙三巻(36*3=108句)を仕上げてしまった、
ということです。
よっぽど盛り上がった会だったんですね。
『奥の細道』に見える有名な句も、
元は大勢で詠んだ俳諧の、発句=冒頭部分
だったものも、あるのです。
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